「衆議院が解散され、いよいよ選挙戦ですね。素朴な疑問ですが、どうして解散する時、万歳をするのですか?」
「もともとの始まりは明治時代だそうです。だから、一種の慣例みたいなものです」
「一応、一つの伝統として受け継がれているということですか?ただ、解散ということは、全員その瞬間に衆議院議員をクビになった訳ですよね。何か、感覚的に合わない感じがします」
「ただ、全員が万歳をしている訳ではありません。不満な方も当然いると思います。今回の解散は、少し不意を突かれた解散ですので、野党は万歳をしていないと思います」
「いよいよ選挙ですが、昨日に引き続いて経済問題を中心にお願いしたいと思います。まず、分配ですが、与野党ともに言っていますよね」
「国民受けすると思っているのでしょう。逆に言うと、日本の国民は、その程度のレベルと思われているのかもしれません。カネをちらつかせれば、票を取れるというふうに思わせている我々の方の問題があるのかもしれません。『日経』は社説(10.14日付)で分配競争は避けよと言っています」
「あと、与野党論戦の中で経済成長率を話題にしていた政党がありますが、どう思われますか?」
「経済成長率を選挙の公約にしたり、議題にしたりすることは不適切です。経済というのは、人の思惑を離れて動くものだからです」
「景気が良くならないのは、政府の経済対策が悪い、アベノミクスが悪いということを言う政党もあります」
「景気が良くないことまで、政府のせいにされたら、政治家はたまらないでしょう。もちろん財政政策は政府が行いますが、その結果まで政治責任として問われることはありません。そもそも、予算を決めたのは国会で、それに基づいて行政が動き、経済も動いたのですが、経済活動は政府だけで行っている訳ではありません」
「そこは、高校の「現代社会」の授業で習いました。経済の三主体ですよね。政府、企業、家計です」
「その三者が複合的に動くことによって、様々な結果が出てきます。政府や日銀は経済活動を裏から黒子のように支える役割です。責任の一端は担っているかもしれませんが、すべて責任を負わせる訳にはいかないし、逆に経済成長率を誇るのもおかしいということになります」
「昨夜のテレビで立憲の枝野氏の街頭演説を放映していましたが、民主党の時代の経済成長率はアベノミクスよりも良かったと言っていました」
「当時と今とでは経済規模の分母が違うので、単純にパーセントを比較することはできません。そして、そうやって単純にパーセントを比較してよければ、中国の習近平が世界で一番優れた指導者になってしまいます」
「何かそれもおかしいということですね」
「政治家は経済家にあらずなので、政治を語るべし。仮に、経済を語るも、経済成長率を語るなかれです」
「成長を語るのはいかがでしょうか」
「成長というのは、結果ですよね。そして、それは政府の力だけで成し遂げられるものではありません。政治家が言うべきことは、成長のための戦略です」
「ここからが本論です ↓」
良い借金と悪い借金
同じ借金でも、良い借金と悪い借金があります。企業活動を例にとります。新たな分野に挑戦するために業務を拡張するために資金を借り入れることがありますが、それは良い借金です。それに対して、業績が上がらず経常利益がマイナスとなり、当面の運転資金を銀行から借りるというのは悪い借金です。各党が唱えているバラマキ政策の原資は良い借金なのか、悪い借金なのかということです。
良いか悪いかの判断の分かれ目は、その理由と何にどのように使うかにあります。各党とも「分配」と言っていますので、コロナ禍で収入が減ったので、それを補填するという意味合いが強いものです。立民は富裕層や大企業から税金として取るという考えを示していますが、賄えるとは思っていないでしょう。持ち出しが当然多くなりますが、各党とも国債を原資と考えていると思います。
現時点では、悪い借金が増えそうだと判断せざるを得ないということです。
(「note」)
成長戦略が何も語られていない
悪い借金と良い借金の違いは、成長戦略があるかないかです。例えば、企業(製造業)で考えてみます。利益を出すためには、どういった市場にどのような製品を出せば良いかを考える必要があります。そして製品に多くの付加価値をつけることができれば多くの利益を得られますので、そのためには優秀な人材を採用するか育成する必要があります。こういった成長戦略があれば、企業は発展することができますが、その実現のために資金を借り入れることがあります。そのような資金の捻出は良い借金として市場は評価するでしょう。
与野党ともに何が欠落しているのかと言えば、成長戦略が完全に欠落しています。日本という国が発展していくためには、どうすれば良いのか。大まかな方向性だけでも良いので、戦略が必要です。明治の頃は、殖産興業政策によって日本の絹製品を外国に売り込んでいきました。戦後の高度経済成長期は、工業立国ということで日本の工業製品を大量に海外に輸出をしたのです。安倍首相の時は、観光立国という目標を掲げました。そのように、何か柱になるような戦略が必要ですが、ただ単に「新しい資本主義」と言うだけで、中身は何も示されていない状況です。
一応念のため、アベノミクスは成長戦略ではありません。あれは、あくまでもデフレ対策です。
(「大同メタル工業」)
経済については、市場が正直に反応する
政治の世界は、言ってみれば口先の誤魔化し合いという側面もあります。ただ、経済については、市場が正直に反応しますので、その数値を見れば殆ど分かってしまいます。
直近の外国為替相場のレートの動きを見ると、市場は日本経済の先行きに不安を覚えているのが分かります。まず、ここ最近、円安に動いています。『日経』(2021.10.14日付)は早速「悪い円安加速」と報道しています。アメリカの長期金利が高い水準で推移しているため、円が売られ、ドルが買われた結果と分析しているようですが、根底には日本経済の先行きに対する不安観があると思います。
何を根拠に言っているのかと言われそうですが、日経平均株価と金価格でおよそ市場の「考え」が分かります。従来であれば、円安は株価にとって好材料だったのですが、最近は必ずしもそうは動いていません。日本経済の弱体化が反映し始めていると見ています。ただ、その判断は短期で見るものではありませんので、是非そのような観点から少し長いスパンで見て欲しいと思っています。そして、特に見るべきところは、2015年につけた安値を突破するかどうかという点です。そのようなことがあると、市場は日本経済について厳しい見方をしていることが分かります。
戦略なき国家は没落が始まる
庶民は最悪を考えて、最善の努力をする必要があります。中国には「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉があるそうです。独裁政治が何千年と続いてきた中国です。権力の隙間をかいくぐってしたたかに生きてきた人たちが編み出した言葉でしょう。日本では家族主義的な政治が長く行われてきましたので、対策を立てるという発想は多くの国民は持っていないと思います。ただ、野党のトップが成長率を語り、与党のトップが成長戦略を一言も語れないような低レベルでは、この先が思いやられます。
成長戦略というのは、かくも重要なものです。飛行機で言えば、目的地を定めてそこに向けて飛び立つということです。それがなければ、右往左往して、途中で乱気流に巻き込まれるのがオチです。
自公で過半数をとれば万々歳という単純な世界状況ではありません。政権与党がきちんとした成長戦略を見出せない場合は、通貨安、インフレ、株安がやがて起こることになります。通貨安、インフレが起きれば、金価格が上昇します。インフレが起きれば一旦株価は上昇しますが、どこかの場面で反落します。というように、悪しきことが連鎖反応のように起きてきます。
ただ、選挙が終わった後、説得的な戦略が打ち出されるかもしれません。今の時点では分かりませんので、最悪のことを想定して、資金の分散を考える用意をするということだと思います。日本円ではなく米ドル、日本株ではなくアメリカ株、現金よりも金、というのが、現在の状況下で言えることです。
成長戦略がないということは、「日本売り」が始まるということだからです。選挙が終わった後、株式市場と外国為替市場がどう反応するか、それが一つの判断の目安になります。
(「新生銀行」)
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