「『学校の「当たり前」をやめた』という本を知っていますか?」
「どこかで、聞いた覚えがありますけど……。何かテレビで前に話題になっことがありますよね」
「当時の麹町中学校の校長先生が書いた本なんです。定期テストや制服、宿題、固定担任制など、いろんなものを止めてしまった先生です。その麹町中が揺れているそうです」
「どうしたんですか?」
「前の校長先生は工藤先生というのですが、彼が転勤されて新しい方が来て、また元に戻そうとしているみたいなんです」
「公立学校というのは、そういうことがよくあるんです。それで全部元に戻したのですか?」
「そんなことを急にしたら大変なことになります。私服OKから標準服を指定して、そこから選ぶようにしたみたいです」
「わたし的には、それで良いと思います。凄い私服を着てくる子がいたんでしょうね」
「制服廃止に何年もかけて話し合いをして、という歴史を知っている親たちは憤っているみたいですね」
「鶴の一声で戻されたら、そう思うかもしれませんけどね……。他には、何か戻したものがあるのですか?」
「定期テストを復活させようとしているみたいですね。ただ、服で大騒ぎだったので、今は静観状態のようです」
「一度定着したものを元に戻すのに大変な労力がいりますからね」
「校長が代る度に方針が変わると現場は教師も含めて、親も生徒も混乱するでしょうね」
「ここからが本論です ↓ 表紙写真は「TOKYO MX」提供です」
麴町中学ならではの「改革案」
麴町中学の前の工藤校長は2014~19年度の6年間在職していました。その間に定期テスト、宿題、制服、固定担任制などを廃止してしまいました。
ただ、そういった大胆なことが出来るのは、麴町中学だからこそという面が多分にあると思います。どこの中学校にも、通用する「改革案」ではありません。
この中学校は皇居の近くに学校があり、かつては学区外からの越境入学者が全校生徒の過半数を超えたこともあったそうです。麹町中→日比谷高→東大という暗黙のコースがあり、日比谷高が東大合格者を毎年200人近く出していた時代に、麹町中から日比谷高に毎年50人位進学させていたのです。そのような超進学校の伝統があるため、工藤校長の改革案が実施できるようになったと思います。学力が低い学校で実施すれば、学校は無茶苦茶になると思います。
(麴町中学/「kojimachi-pta.jp」)
特色ある学校を地域につくるシステムを
地域の実情に合わせて、いろんなシステムを導入するのは構わないと思いますが、トップがいなくなった途端に元に戻るのでは、今までやってきたことは何だったのかということになります。
本来は、仮に工藤方式が麴町中に合っているならば、そのやり方を組織的に継承する必要があります。麴町中の中で工藤方式を最も理解し、共感していた人間が今度はリーダーシップを執ってさらに改革を進めるということだと思います。そうすれば、ユニークな学校としての伝統が築かれる可能性があります。
公立学校がそういった「伝統」を築くことが出来ない原因の一つが転勤制度です。管理職も教員も原則3年~6年で転勤します。長居が出来ないようになっています。そのため、殆どの方は腰掛程度と考えがちになります。そういう中で、工藤校長は生徒を見て、改革に乗り出そうとした。それはそれで素晴らしいと思いますが、そういったものを生かせるシステムを行政がつくる必要があるのです。
(「メガホン-Schoo Voice Project」)
学校は何のためにあるのか
「社会の中でよりよく生きていけるようにする」ために学校はある、と工藤校長は言います。それはそれで良いとして、その後の掘り下げ的な論理が彼の著書には書かれていません。
よりよく生きていくためには、生徒にどういうことが必要でしょうか。2つあると思います。アイデンティティの確立と基礎的学力の獲得です。アイデンティティというのは、特性のことです。自分の得意、不得意を知る中で、自分の進む方向を考えるということです。その進路を希望しても、それに見合った力がなければそれが適いませんので、基礎学力をつけてあげる必要があります。
そういった2つのことを獲得させるための方法論が工藤校長と現在の管理職とでは分かれています。工藤校長は「支援」と言い、現在の管理職は「指導」と考えます。そうなると、当然、定期テストは復活の方向となるでしょうし、私服廃止となるでしょう。
ただ、子供たちは日々生きているので、時には「支援」、そして時には「指導」となります。そして、全体的にどちらに重きを置くかです。ケースバイケースで柔軟に考えれば良いので、頑なに一つの視点しか受け付けないとなると、そこから混乱も生じます。(参考:「支援か指導か、広がる波紋」(『日経』10/24)、工藤勇一『学校の当たり前をやめた』時事通信社、2018)
(「note」)
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