2020年度(2020年4月)から全国一斉に、小学校5.6年生の英語が正式教科としてスタートする。文科省の調査によると、小学校教員のうち中学や高校の英語免許を持つ人は約5%(17年度調査)とのこと。中学生の英語を教えるのには、英語科の教員免許がいるが、小学生に対しては免許なしが常態化されることになる。態勢が充分整っていないにも関わらず、正式教科に踏み切った理由はグローバル化ということである。
文科省が出した「小学校学習指導要領解説 外国語活動編」(平成20年)を見てみることにする。「小学校外国語活動新設の趣旨」には「社会や経済のグローバル化が急速に進展し,異なる文化の共存や持続可能な発展に向けて国際協力が求められるとともに,人材育成面での国際競争も加速していることから,学校教育において外国語教育を充実することが重要な課題の一つとなっている」とある。
「近現代の世界史はナショナリズムとグローバリズムの戦いであり、今日でもこの思想戦が続いている」(渡部昇一、馬淵睦夫『日本の敵 グローバリズムの正体』飛鳥新社、2014年/142ページ)。「アメリカンファースト」はナショナリズムであり、一帯一路はグローバリズムである。共産主義は「万国の労働者よ、団結せよ」なので、本質的にグローバリズムである。
だから「共産主義者もグローバル推進者も『国境』という存在が嫌い」であり「共産主義革命を押し進めていた勢力と、グローバル化という究極の資本主義を押し進めている勢力は、同根である」(渡部昇一 前掲書)との指摘もある。
動態的な視点を持つ必要がある。今はポピュリズム(大衆迎合主義)がトレンドであるが、ナショナリズムは国家に比重がかかっているが、両者ともグローバリズムの対極にある言葉であることには間違いない。そして今は、グローバリズムと、単純な言葉で説明できるような状況ではない。
実際の駅伝はコースルートが1本であるが、「世界各国駅伝戦」はコースが2本ある。周りは応援をしたり、時には、コースの指示を出したりする。デマもあるので、指示が正しいかどうか分からない。
そのため、ランナーがコース選択を間違えて、順位を下げてしまうということもある。グローバリズムコースを選ぶか、ナショナリズムコースを選ぶかというのは、大事な問題である。
日本ランナーの今までの走りを振り返ってみたい。古くは奈良、平安時代は国風文化が花開いた。江戸の時代も人々は天下泰平の世を楽しんだ。明治近代以降、視線が海外に向くことになり、グローバリズムコースに変更をする。大東亜共栄圏もグローバリズム、その行き着いた先は、原爆投下と敗戦であった。
日本人は農耕民族であり、狩猟民族ではない。本質的にグローバリズムは性に合わないと思われる。日本史を振り返っても、そちらのコースを走って余り良い目には遭っていない。
とにかく教育内容の大幅な変更の理屈として、グローバリズムというイデオロギーをもってくるのは、不謹慎と言わざるを得ない。なぜなら、イデオロギーはトレンドがあり、流行りと廃(すた)れがあり、普遍的なものではないからだ。そのトレンドの時は必要だったが、波が引いたらもう必要ないでは困るだろう。だから、トレンドを追い求めるのであるならば、迅速性が必要である。11年前に出された方針の今さらの具体化は、今の時代の急速な流れを考えると、余りにも遅すぎるとしか言いようがない。
そして、英語が国際語のような地位にあるので、それを学ぼうということであろうが、そこにはアメリカという国の存在が大きい。国には栄枯盛衰がつきまとう。それを考えれば、決して普遍的な教科とは言えない。
そもそも教育方針や教育内容を猫の目のように変えるものではない。仮にトレンドを追い求めたいのであるならば、教育の地方分権化をしてからにすべきであろう。そうすれば、中には小学1年生から英語を導入する県も出てくるであろう。失敗しても成功しても、どちらでも教訓となる。現在の中央主権体制では、仮に失敗した時、その影響は全国に及び、被害は末代に及ぶ。権限を集中すると、組織は暴走しやすくなる。戦前の軍隊の大暴走で多くの国民が犠牲になった。その教育版が現在進行している。
トレンド、つまりコースとは関係なく駅伝大会で優勝するためには、自分を見つめ長所を伸ばして走力をつけることである。先人が何千年もかけて遺した日本文化の数々、それらが生きる力、走る力になるはずである。それを学ばせることなく、健全な日本人を育てることはできない。
母国語である日本語の力を伸ばすことなしに、能力を伸ばすことはできない。人は母国語で様々なことを考え、創造する。外国語がどんなに得意であっても、母国語で考えて、それを頭の中で翻訳して話をしているだけである。外国語は単なる会話のツールであって、思考のツールではない。
これからAI時代の本格的な到来となる。AI翻訳システムの導入が自治体レベルで加速している。高度外国人材の日本への流入も始まった。彼らの多くは英語が得意である。現在の滞在者は28万人とのこと。小学校から英語を学んでも、活躍する場面がない可能性が高い。
会話ツールを学ぶ時間を、母国語の読解の時間に充てた方が良いだろう。国立情報学研究所の新井紀子教授も「AI社会こそ『読解力必要』」(「朝日新聞」2019.7.7日付)とおっしゃっている