「また、台風が発生したみたいですね」
「今度の台風は、もしかしたら日本列島を横断するかもしれないと言われています」
「毎週1つずつ台風ですか。8月には線状降水帯で東北や北陸など大変な被害に遭ったところが多かったですね」
「まさに、異常気象ですね」
「温暖化の影響ですよね」
「そうだと思います。ただ、一番問題なのは降水量のバランスが世界的に崩れていることです。大気は循環していますので、空から降る雨の総量は地球という視点から見れば変わらないはずです」
「日本に多く降っているということは、少なくて困っているところがあるということですか?」
「その通りですね。日本以上に水被害を受けたのはパキスタンです。国土の1/3が水浸しになったと言っています」
「ニュースを見ましたけど、かなり悲惨な状況だと思いました。どこから手を付けるのかなと思いました」
「逆に、中国の長江流域は記録的な干ばつに見舞われているそうです。あと、ヨーロッパも降水量が少なく困っているようです」
「そういうアンバランスが発生しているということですね」
「天候の異常は、食料生産に直接影響を与えます。日本は殆ど危機感がないのですが、食料確保、さらには備蓄ということを真剣に考える時代です」
「食糧安保という言葉も最近はよく使われるようになりましたものね」
「ただ、日本の政府は余り危機感をもっていないと思います。2022年の岸田首相の施政方針演説の中で「経済安保」という言葉はありますが、「食糧安保」はありません。危機感が薄いと思っています」
「ここからが本論です ↓」
目次
日本――農林水産業にとって絶好の自然条件に恵まれている
日本列島は70%が山林であり、複雑な海岸線を有し、多くの島を抱えているという自然的な条件にプラスして、温帯・亜熱帯性の気候です。そんなこともあって、農林水産業にとって絶好の条件に恵まれた国です。歴史を辿ると、そういった条件をフルに生かして日本は食料自給を長年にわたって達成してきた国です。
江戸末期の開国、そして明治維新を経て、日本は近代化に向けて足を踏み出します。第一次産業、第二次産業という言葉があるように、国が経済発展していくためには、第二次産業、第三次産業に人材と資本を投入した方が効率的に目標を達成できます。
そんなことから、日本は工業立国を柱に据えて近代化を推し進めようとしたのです。その方針は戦争を挟んで変わりませんでした。そのことは同時に第一次産業、つまり農林水産業への注力が少なくなることを意味したのです。
(「MITUI&CO,LTD.」)
グローバル時代の終焉――自給体制を強化する時代
世界が真のグローバル時代に歩みを始めているならば、食糧のことは余り気にしなくて良いのかもしれません。しかし、事情が変わってしまいました。
冷戦が終わり、各国は国境を越えて商品と資本、そして人の移動が自由にできる時代が間近になったと思ったのもつかの間、それは「一瞬の夢」に終わりそうな状況です。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻が行われた瞬間、グローバル時代は完全に止めを刺されました。それにプラスして、異常気象です。政治の第一目標は、国民の胃袋を始めとする基本的な生活を保証することです。衣食住のうち、衣と住は国家レベルの大惨事さえなければ大丈夫ですので、問題なのは「食」です。これを何とかする必要があります。
(「毎日新聞」)
農業大国の中国が食糧調達に対して危機感をもっている
日本の食糧自給率は現在37%です。世界が平和であれば何も問題はありません。足らなければ、どこかの国から食料を輸入すれば良いだけだからです。今までは、この発想で乗り切ることが出来ました。ただ、国際社会は変動し、変化します。今までの考え方が通じなくなることが起こります。今、まさにそういう時代に突入しようとしています。
中国は広大な土地を生かして、多くの穀物を生産してきた国です。その中国が2020年から習近平国家主席が先頭に立って食品廃棄をなくすキャンペーンを始めています。昨年には「食べ残し禁止法」という法律を制定しています。この法律は何なのかというと、中国では伝統的に何かお祝い事がある時は、食べきれない程の料理を注文するというのが昔からある一つの習慣です。気持ちは分からないでもありません。多くの料理に囲まれて幸せな気分に浸りたいというものでしょう。
だから、宴会が終わった後は、大量の食べ残しが出るというのが常だったそうです。それは許さないということなのです。その背景には、中国の食糧調達に対する危機感があるのです。
実は、その中国よりも自給率がはるかに小さい日本は何の危機感も抱いていないと言う状況があります。豆腐や醤油、味噌などの原料となる大豆の自給率は6%にすぎません。
(「You Tube」)
国全体で第一次産業を保護する態勢作りが必要
第一次産業は、他の産業分野と違って、生産の実績が上がるまで多くの年数が掛かります。急に生産力を上げろと言っても無理な業種です。だからこそ、国の長期的な目線に立った食糧戦略が必要です。
そして、その仕事内容を受け継いでいく人材の育成も必要です。基本は全国一律教育で構わないのですが、その地域の特色を生かしたカリキュラムが組めるような制度的保障とそれを実際に教える人材をどう育成するのかといったことを考える必要があります。大地に種を蒔けば勝手に作物が生えてくる訳ではありません。食料として耐えられるものを生産するためには、それなりの準備期間が必要だということです
今回の東北地方の水害で多くの農家や酪農家が被害を受けています。それにプラスして、肥料や飼料を海外から多く輸入している関係で円安による高騰といったダブルの直撃により廃業を検討しているところもあるそうです。
本当はそういった状況の時こそ国全体で酪農業を保護する態勢作りが必要なのです。コロナ対策だけをやっていれば良いわけではありません。東大大学院生命科学研究科の鈴木宣弘教授は「世界一過保護な日本農業という誤解が国民に刷り込まれてしまっているが、実態はまったく逆だ。米国では、コロナ禍による農家の所得減に対して総額3.3兆円の直接給付を行い、3300億円で農家から食料を買い上げて困窮者に届けた。日本はほぼゼロだ」(「食料自給率が過去最低となった日本の今そこにある危機」nippon.com)とおっしゃっています。
戦略的な目標をもって事にあたるということです。政治家と官僚の力量が問われていると思っています。
(「読売新聞オンライン」)
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