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中国はやがて世界一の科学技術力の国に / その時に世界の自由と民主主義が終わる

女性

「科学論文の数が話題になっていますが、今一歩その重要性が理解できないのですが」

女性

「論文の数が多いということは、学者が多いということですか?」

「いや、そうとは限りません。論文を量産できる学者もいますし、全く書けない人もいますので……。ただ、ほぼ比例すると考えていいと思います」

女性

「素朴な疑問ですが、論文と作文は、どう違うのですか。作文の内容を高めたものが論文という捉え方で良いのですか?」

「論文と作文は、質的に全く違います。論文は、テーマを中心に置く必要がありますが、作文はその人の感性で自由に書いても構わないものです。お勉強をして書くのが作文です。大学で学問的テーマに基づいて書くのが論文です」

女性

「学問的テーマというのは、……」

「要するに、まだよく分かっていないこと、意見が分かれているようなことですね。人類が分かっていることは、全宇宙の中でまだわずか5%位だろうと言われています」

女性

「問題意識がないとテーマを見つけることができないでしょうね」

「そうですね、すべて当たり前と思って、そこで思考が止まっているようでは、何も発見できないでしょうね」

女性

「問題意識をもたせるような教育が大事ということでしょうか」

「どの段階で、もたせるかということだと思います。余り早くもっても、そこから全く進めなくなります」

女性

「お星さまは、どうしてこんなにたくさんあるの?」「蟻さんはどうやって話をしているの?」という類の疑問をもったとしても、何故だろうで終わってしまうということですね」

「その段階では、計算の仕方、言葉の意味、動物の種類や性質など、分かっていることを覚えたり、理解させるのに時間をかけた方が能率的です」

女性

「その辺りを勉強するのが、義務教育ということですね」

「そうなんですが、わずか5%位と言っても膨大な量となります。知識を追い求める時代ではありませんので、ある程度のところで切り上げて、学問の世界に入ることが求められます」

女性

「そして、子供の頃から温めていた疑問を解決するために学問研究を大学で行うという流れですか」

「何に問題意識をもって、それをどのように捉え、解決に向けてどう考えるか、あるいは行動するかといった学問センスが分かるような大学入試が求められる所以です」

女性

「そのことは昨日のブログで言っていましたよね。ところが、大学入試がマークシート入試になってしまっているという問題ですよね」

「マークシートでは、知識さえあれば高得点が可能です。学問の世界では、むしろどう考えるかが重要なのです。国家公務員試験や司法試験の類(たぐい)で大学入試を考えてしまっているのです」

女性

「大いなる勘違いということですか。ここからが本論です ↓」

 多くの『新聞』が世界にとって何が重要なニュースか分かっていない


中国、科学論文数で首位 研究開発でも米と攻防」という表題で1面トップ記事として報じたのが『日本経済新聞』です。この新聞社は経済力を上げるためには、科学技術を向上させ、教育力を上げる必要があるという認識のもとに紙面を作っていることが分かります。科学技術分野、教育分野の専門のスタッフを置いて、高いレベルの記事が常時発信されています。別に社長と話をした訳ではありません。あくまでも、今まで紙面を拝読させていただいた上での感想です。

ちなみに、他の5紙(『読売』『朝日』『毎日』『産経』『東京』)の1面トップ記事はコロナ関連です長いスパンで見た場合、コロナはやがて終息します。100年位たてば、令和の最初の頃に大変な騒ぎがあったという程度の話で終わってしまうようなことです。

ところが、科学論文の数が米中で切迫し、専門分野によっては米中逆転が起きているというニュースは、近い将来の世界経済や政治に影響を与えると思われる大きなニュースです。このまま行くと、4,5年後には米中の完全な逆転が実現するのではないかと思わせるような勢いです。そうなってくると、世界の勢力地図にかなりの影響を与えることになります。重要度からすれば、こちらの方がはるかに重要です

『日経』はそのような判断から、「総合2面」にも「科学脱『欧米中心』に布石」と題して、紙面半分のスペースに7段組みの記事でこの問題を報じています。

NHKもこの問題を報じていました。ちなみに、全く報じていないのは『朝日』『東京』です。この2紙は、へたに報じて、日本が危機感をもって対策を立てられても困るという、別な考えに基づくものがあるのかもしれません。

 中国は世界一の科学立国になるだろう

 米中の論文数に注目が集まっていますが、日本はどうなっているのかと気になる人がいると思います。日本は一応4位ですが、両者とかなりかけ離れた4位です。とにかく、3~5位集団を日、独、英がどんぐりの背比べ状態で競っています

日経』(2020.8.8日付)の記事を紹介します――「米中2強時代は鮮明だ。論文の世界シェアをみると中国は19.9%、米国は18.3%、3位は4.4%に過ぎない」、「中国は論文数を年々伸ばしてきた。論文数は20年前の18倍、10年前の3.6倍になった」。「中国は論文の質でも米国に迫る。優れた論文は引用数の多さで評価される。被引用数が上位10の注目論文のシェアをみると、1位は米国の24.7%、中国は2位で22.0%

 

 

中国の論文数の伸びは21世紀になってから目を見張るものがありますグラフの伸びを見る限り、やがて中国は世界一の科学立国になることが予想されます。今度は、そうなると世界はやがて中国共産党の統治下になってしまうのではないかという心配が出てきます。
ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた恐怖の世界は、ある国の国内の話でしたが、科学技術力で全世界を統治する可能性も出てきます。実際に、中国は「香港国家安全法」違反ということで、海外に在住する米国籍の人間6人を国際指名手配しています。

ということは、日本人でも香港の問題で中国共産党に対して批判的な意見をネットに投稿しただけで、国際指名手配を受ける可能性があるということです。国際指名手配をされたからといって、現在は国境を乗り越えて捕まることはありません。ただ、大いなるプレッシャーを受けると思います。今までのように、ネットに共産党批判を書くことをためらうと思います。

コンピューターを開けると、例えば国際メールが中国から来ている、内容は「直ちに本国に出頭されたし」、来る日も来る日もそういうメッセージをもらえば、どんな人でも委縮をして、政治的発言をしなくなるのではないでしょうか。中には、「共産党バンザイ」と本音とは違うことを言い始める人も出てくるのではないでしょうか。そのように、SNSを個人攻撃に使うこともできますし、選挙介入も当然できます。それこそ、世界の国々の体制を巧みな世論誘導で引っ張って、自分の都合の良い政権を樹立させることも可能です。

今、実は5G通信分野では、中国が世界をリードしている状況にあります何故、彼らはそんなに急ぐのかということです。消費者からすると、別に4Gでも5Gでも、どちらでも良いのです。そんなに不便はないので、余りこだわっていないのですが、何故急速に「5G時代」ということで、端末を普及させようとしているのでしょうか。

要するに、旗振り役がいるからです。何故、旗を振っているのでしょうか。今まで以上の大容量通信ですので、今までより多くの情報をより早く手に入れることができるからです
大容量通信を可能とする5Gが実用化すれば、あっという間に4Gのインフラは廃(すた)れ、世界中の通信インフラが安価な中国製基地局に席巻されて、中国が世界のデータを手にすることになる」(深田萌絵『「5G革命」の真実』WAC.2019年/109ページ)


 出でよ、哲人政治―—戦略なき闘いは敗北となる

中国がこれ程までに科学技術の先進国として急速にその存在感を示し始めたのですが、それは一体どうしてでしょうか。『日経』の分析によると、鄧小平の時代の1980年代に科学技術の近代化を目標として打ち立て、それを憲法に盛り込んだのが最初のきっかけです
そして「科学技術進歩法」などを制定し、科学技術予算を意識的に増やし、研究者の数を増やしてきました。さらに、その質を高めるために積極的に留学生としてアメリカの大学や研究所に送り出したのです。そういった地道な努力の成果が、現在の数字に表れています。

日本は退潮傾向と報道されていますが、中国と真逆のことをしているからです。科学技術の研究開発費は中国の1/3ですし、その少なさについては常々言われていることです。教育予算はGDPの5%であり、そもそも科学や教育についての国家戦略がありません今回のコロナ禍の中で教育や行政のデジタル化が進んでいない現状が露呈しましたが、知らない間に日本は周回遅れになっています。個々の大学や企業の研究が自然発生的に成果が上がるのをただ単に見ているだけという状況です。

そんなこともあり、「論文数は20年前には世界2位であったが、17年は4位。注目論文は20年前の4位から17年には9位に沈む」(『日経』2020.8.8日付)状態です。
中国は共産党の一党独裁国家ですが、科学技術の方針を打ち立てた当時の指導者の鄧小平は、非常に柔軟に物事を考える合理的な人で、今の中国発展の基礎を作った人だと思っています。

日本は言論の自由が保障された民主主義国ですが、科学技術行政を担う文科省が極めて硬直的な組織です。文科省に26年間働いていた職員が『文部科学省は解体せよ』(扶桑社.2017年)と言い、「文部科学省が今や『反日』の伏魔殿と化しつつある」(高橋史朗「子育て文化の危機と再発見」『日本』8月号所収)という指摘をする人もいるくらいです。天下り問題で責任をとるかたちで文科省の事務次官を辞めた前川氏は、現在全国各地で反日活動をしています。トップを見ればどういう組織かおよそ分かるということです。


中国の科学技術政策が国家戦略の中に位置づけられ、予算も保障されながら合理的に行われている一方、日本の科学技術政策は教育政策も含めて、国家戦略の中に位置づけられこともなく、予算も少ないまま、共産主義的な硬直した組織がそれを担っているという皮肉な図式がそこにあります

どうしてそうなったのか、官僚をコントロールするのは政治家の仕事です。プラトンではありませんが、理想の政治を生み出すためには、政治家が哲学を学ぶ必要があるのです。理想と理念をもった政治家の出現が待たれる所以です。突き詰めれば、政治家の力量の違いが出たということでしょうか。

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