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日本の財政は本当に危機なのか ―― 財政均衡論という「単眼思考」を問い直す / 「国の借金」という数字の罠

女性

「前回のブログで財務省筋は、古典派経済学の理論を採用しているという話でした。それを頑なに守っているのですか?」

「本来は、時代の変化に対応して財政政策も変更すべきですが、かつての時代の古びた理論で対応しています」

女性

「それは、どうしてですか?」

「官僚組織というのは、一度一つのルールが出来てしまうと、なかなか変更できないものです。そして、実は財務省のキャリア官僚の多くは、法学部出身者が多いのです」

女性

「経済を深く勉強したから財務省に入省した訳ではないのですね」

「キャリア官僚の採用は、大学の専攻学部とは関係なく国家公務員試験の結果で採用されます。財務省の入省者は総合職試験でトップクラスの成績を取った者で殆ど占められていますので、東大法学部出身者が多いと思います」

女性

「彼らは、経済の勉強をする機会はないのですか?」

「法学部でも、経済の講義は受けていますし、入省数年目の若手キャリアの多くは、国費でアメリカやイギリスなどの海外大学院(MBAや経済学、公共政策の修士課程)へ留学します。ここで欧米の最新の経済学や財政理論に触れる官僚は数多く存在します」

女性

「それにもかかわらず組織がいつまでも「金庫番」の役割しか果たしていないのは、どうしてですか?」

「留学から帰国した優秀な官僚が最新の経済モデルを提案しても、財務省の至上命題である「財政健全化」という絶対的なドグマによって排除されてしまうのです」

女性

「日本の社会ではよくあることですね。私も会社でいくつか提案したのですが、ほとんど無視されました」

「本当は、それではいけないのですけどね……。ここからが本論です ↓表紙は「www.chiba-tv.com」提供です」

 国債残高だけで日本の財政を判断してよいのか

雑誌『Wedge』(2026年10月号)が「大膨張する日本の借金 『国民総ゆでガエル』から脱却を」というテーマで特集を組んでいます。ただ、その視点が財政均衡論の立場からのものです。編集部のメッセージが書かれていますが、その中に「財務省には国の『金庫番』として、財政規律を維持する責務がある」「大膨張した国の借金」「返すのは我々国民一人ひとり」といった言葉が並んでいます。要するに、国債の発行残高が多いことを問題視しているのです。

その編集方針に沿った論文が2本掲載されています。土居丈朗慶応大学経済学部教授の「近づく『Point of NO Return』財政危機を直視せよ」、そしてもう一つが河村小百合日本総合研究所調査部主席研究員の「80年前の悲惨さを忘れるな! 財政再建のためにできること」です。そして、元財務次官の矢野康治氏のインタビュー記事です。いずれも、同じ視点から財政問題を説いています。なお、矢野氏は、2021年11月号の『文藝春秋』にやはり財政問題について寄稿をして、当時話題を振りまいた方です。

上記の三氏の主張には、それぞれ力点の違いがありますが、共通しているのは、巨額の政府債務を日本財政の重大なリスクと捉え、財政再建の必要性を強調している点です。要するに、GDP(国内総生産)と国債発行残高を比較して、その比率が国際的に見ても極めて高い水準(約200%)にあるので、財政再建をするべきだと言うのですが、視点が単眼的です。現代の国家はかつての時代と違って、福祉国家として経済発展を牽引する役割が課せられています。もちろん、GDP比も重要な指標には違いはありませんが、それだけが全てではありません。債務の規模だけでなく、債務の保有構造、政府資産、利払い負担、経済成長率を総合的に評価する必要があるのではないでしょうか。現代の動向に対応したいくつかの経済指標によって国家を分析すべきです。

(「JR 東海MARKET」)

 企業の財務分析に学ぶ「多面的評価」の重要性

話を分かりやすくするために、会社に準えて説明したいと思います。株式投資の分野では、企業分析において様々な指標が使われます。「借金の総額(債務残高)」だけで判断することは絶対にありません。

企業の持っている資産(財産)と、借金(債務)のバランスがどうなっているのかを見ることが重要です。そのための指標としてBPS(式: 純資産(資産-負債)÷発行済株式数)=「1株当たりの純資産」というのがあります。この数値と現在の株価を比べれば、現在の株価の「位置」が分かります。また、自己資本比率がどの程度なのかによって、倒産しそうかそうでないかが分かります。自己資本比率というのは、総資産のうちの自己資本(純資産)の割合のことですが、一般的に70%以上なら資産的には概ね優良と言えるでしょう。

ただ、資産的に優良企業だからと言って、その企業が成長するかどうかは分かりません。資産的な優良と、成長とは別だということです。だから現実に、資産的には優良企業だが、株価が低迷している企業はいくらでもあります。成長戦略がなく今後の発展性が期待できないような企業は、評価は相対的に低くなるので株価も上がらないと思います。

そして、企業の収益性を測る指標としては、様々なものがあります。EPS(式: 当期純利益÷発行済株式数)=「1株当たりの利益」やPBR(式: 株価÷1株あたりの純資産/BPS)=「株価純資産倍率」、PER(式: 株価÷EPS)=「株価収益率」などです。PBRと PERは株式投資で株価を評価する際によく使われる重要指標です。例えば、PBRが1.0であれば、その時点で企業が解散して、すべての資産を株主に分けると、株価とほぼ同じ金額のお金が株主に支払われるという意味です。PBRが3.0となれば、その企業の将来性を投資家は見込んでいるということです。PERは株価を1株当たり利益(EPS)で割った指標です。例えばPERが15倍であれば、現在の株価は年間利益の15年分に相当します。PERが高い企業は、現在の利益に比べて株価が高く評価されていることになりますが、それは将来の成長への期待を反映している場合もあります。

(「note」)

 日本の財政を資産・負債・成長力から読み解く

簡単に企業分析の指標を紹介しましたが、企業でさえこのように多くの指標によって様々な方向から評価をします。国の経済を対GDP比だけで判断するのは、早計だということです。全体の資産と債務の両方から日本国を見る作業をしたいと思います。

普通国債残高:約1,110.9兆円 (2026年6月末時点/ 2026年度末には補正予算などを反映し、1,145兆円規模まで膨らむ見込みです)。一時的な資金繰りのための「政府短期証券」や金融機関からの借入金をすべて合計した、いわゆるグロスの総債務で約1,346.7兆円となります。これがいわゆる「国の借金」の総額となります。

家計の金融資産:約2,519兆円(2026年6月末時点/「資金循環統計」)。これだけで国が抱えている借金の倍近くあります。もっとも、家計金融資産は国民の私有財産であり、政府が直接債務返済に充当できるものではありません。しかし、国内に厚い金融資産の蓄積があることは、国債市場の資金調達環境を考える上で重要な要素です。さらに、政府保有の資産総額: 約1,048.9兆円(財務省「連結財務書類」)、日本の対外純資産(日本の政府・企業・個人が海外に持つ「資産(1,805兆円)」から、海外投資家が日本に投資している「負債(1,243兆円)」を引いたもの): 561兆7,504億円(2025年末時点/財務省2026.5)

企業の診断と同じで、「1,346兆円の借金」というマイナス面だけを見るのではなく、そのバックにある「1,048兆円の政府資産」「2,519兆円の国内民間マネー」「561兆円の対外純資産」という圧倒的なプラスのストックを総合的に評価すれば、日本が「すぐに財政破綻する」というロジックがいかに実態とかけ離れているかがデータからも証明されています。

(「note」)

 財政論議の出発点を置き直す必要あり

企業分析の考え方を国家財政に応用するならば、債務残高だけでなく、政府の保有資産、国内の資金供給力、対外資産の状況、そして将来の経済成長力を総合的に評価する必要があります。もちろん、国家には株価も発行済株式もありませんから、企業のPBRやPERをそのまま当てはめることはできません。しかし、企業経営において資産の規模と収益力の双方が重要であるように、国家においても、資産を有効に活用し、将来の所得と税収を生み出す力を高めることが重要です。

日本の財政を考える上で必要なのは、債務削減だけを目的とすることではなく、財政の持続可能性を確保しながら、経済成長を実現するための政策を構想することではないでしょうか。国家財政を考えるとき、私たちは「借金がいくらあるのか」という問いだけにとらわれてはいけないと思います。その国がどのような資産を持ち、どのような経済基盤を備え、将来に向けてどれだけの富を生み出す力を持っているのか。それらを総合的に評価する必要があります。

もちろん、財政規律は必要です。しかし、財政規律を守ること自体が国家の目的ではありません。国家財政は、国民生活を支え、次の世代に豊かな社会を引き継ぐために存在するものです。財政再建を優先するあまり、経済成長の可能性を失わせてしまっては、本末転倒でしょう。問われるべきは、いかに借金を減らすかだけではなく、いかに国の富を増やし、その富を国民の豊かさにつなげるかということです。 財政論議の出発点を、そこに置き直す必要があると思います。

(「TikTok」)

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