「アルバイト社員には、賞与、退職金が出なくても、それは仕方がないという最高裁の判決がでましたよね。私、ショックなのですけど……」
「あなたの気持ちは分かります。ただ、それを一般化して考えない方が良いと思います」
「一般化というのは、どういうことですか?」
「つまり、最高裁の判決というのは、あくまでも大阪医科薬科大学の元アルバイト職員と元契約社員が違法として訴えた2件の訴訟に対する判決だということです」
「要するに、他の雇用環境が違う人が訴えた場合は、もしかしたら違う結論が出たかもしれないということでしょうか」
「そういうことです。判決が出た場合、一般化して良いことと、そうではないことを峻別する必要があります」
「その作業が難しそうですね」
「ある意味そうですね。全部ひっくるめて一般化して、報道するマスコミもありますからね」
「論評しやすいからでしょうね。同一労働同一賃金の原則に反する不当判決ということで、批判的な記事を書いている新聞もあります」
「もちろん、そういった側面もあります。ただ、それだけではありません。多面的な視点が必要です。あと、大阪医科薬科大学と東京メトロコマースは、段階的に正社員の道を用意していたことが、結構判決に影響を与えたと思います」
「そのルートがなければ、裁判は勝っていたということですか?」
「「たら、れば」は良くないのですが、そういう道が閉ざされていれば、判決は逆転していたかもしれません。ただ、裁判というのは、やってみないと分からない部分が多分にあります」
「それは、常々おっしゃっていますよね」
「一般論として考えることは、時代は正規、非正規という労働者間の階層を認めざるを得なくなっているということ、そしてそれをある程度前提にした教育のシステム、さらには人生設計を考える時代になったということです」
「ここからが本論です ↓」
非正規雇用、冬の時代
「非正規格差 不合理認めず」というのが、10/14日の『産経』の1面の見出しです。「同一労働同一賃金の原則」に照らして、非正規ということでボーナスがないなどという格差があるのはおかしいということで提起された訴訟です。
職場内に「格差」があるのは構わない、と言いますか自然に生じてしまうものです。長年会社のために働いてきた人と、臨時で雇っている人を、外面的に同じように働いているということで同じ労働条件で処遇できないからです。
そして、人間の能力には優劣がありますので、全く同じに扱うことなどできません。問題なのは、その格差が合理的なものなのか、不合理なものなのかという問題なのです。そして、最高裁第3小法廷の判決は、格差は合理的で許されるというものだったのです。ただ、あくまでも訴えた人の職場では、という条件付きです。
能力給、資格給の時代
「フルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金水準の比較」
欧米では、同じ仕事をする人を性別、年齢、人種、宗教等によって賃金に差をつければ、差別に当たるとして禁止されています。EU諸国では、フルタイム社員とパートタイム社員が同じ仕事をしている場合、1時間あたり同じ賃金を支払う「均等待遇」を「EU指令」によって加盟国に義務付けています。
たとえばドイツでは、パートタイム労働者の時間あたり賃金がフルタイム労働者の8割となっています。フランスでは9割とほぼ正規雇用者に近い水準と言えます。ところが、日本では6割弱になっており、正規・非正規間の格差が大きいことが一目瞭然ですし、今回の訴訟が提起された背景にはそういったことがあったのです。
年功序列脱却の時代
日本特有と言われた終身雇用制を前提とした年功序列型賃金システムは、今後は年を経るごとに採用する企業は減っていくでしょう。その動きは、サービス産業から起きることになります。
というのは、終身雇用制を前提とした年功序列型賃金システムというのは、専ら労働価値説が通用する工業社会に適合するものだからです。10/14日の『日経』の記事、「課長昇進 20代も可能に」を紹介します。
その記事によりますと、損保ジャパンは新たに社内の人事システムを作ったとのこと。それにより、システム上は課長への昇進を20歳代でも可能になったそうです。今回、5区分あった役割等級を3つに分けたそうです。区分ごとに必要な経験年数の目安を排し、能力と実績に応じたスピード昇格も可能にしたのです。
サービス産業の場合は、見えないサービスをどのように提供するかが勝負です。全く違う位置ベクトルにあるもの同士を結び付け、いかに付加価値が高いものを産み出すかが重要です。そうなると、殆どアイディア勝負、知力勝負ということになります。そして、それに合わせて、エリート教育を各学校単位で行う必要があるのです。
令和の時代、順列・組み合わせ、アイディアの時代
10/14日の『日経』の記事です――「世界経済 進む優勝劣敗」。これからの世界経済は、今まで以上に激しさを増すことになります。それが世界の覇権をかけた争いと連動するからです。日本も知らず知らずのうちに、その戦いの渦に巻き込まれることになるでしょう。
中国の存在が脅威となるでしょう。中国の来年の経済成長率は8%という数字がIMF(国際通貨基金)から出ています。中国の高い成長率は、製造業によって支えられています。GDPのおよそ4割とのことです。14億人という巨大人口を武器に、経済成長を遂げようとしています。
その中国に対抗するためには、同じような発想では太刀打ちできません。何故ならば、人口の数が違いすぎるからです。21世紀の時代は、知恵とアイディアの時代です。もともとある技術、あるいは製品、システムなどを上手く組み合わせ、社会が受け入れてくれる価値物を産み出していく。IT時代は、そういうことをまず考える時代なのです。
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