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ピーター・ドラッカーの『ポスト資本主義』を読む / 21世紀の社会の指針として使うことが出来る内容満載の書

「ピーター・ドラッカーという名前を聞いたことありますか?」

女性

「ピーターパンなら知っています(笑)」

「すいません、これから人を見て質問します(笑)。ピーター・ドラッカー(1909-2005)はユダヤ系のオーストリア人で、経営学者ですが、未来学者とも呼ばれているように、社会の流れを俯瞰的な視点から語ることができた人です」

女性

「「できた」と過去形で言われたのですが、ご存命ではないのですか?」

「2005年ですから、今から15年前に亡くなっています。日本の古美術コレクターであり、知日家としても知られています。ドラッカーの著書の日本の売り上げはダイヤモンド社刊行分だけでも400万部余り、そんなこともあり2005年にはドラッカー学会が設立されています」

女性

「聞けば聞くほど凄い方なんですね。今日は、彼の何を話題にされるつもりですか?」

「ここにきて、せわしく世界が動き始めています。日本も動いています。彼がどのように、今の流れを読んでいたのか、その辺りを紹介したいと思います」
女性
「私はどちらかというと、組織論的なことに今は関心をもっているのですが、そういった方面についても何か書かれているのですか?」

「「マネジメント」は彼の得意とする分野だと思います。「マネジメント」で上、中、下と3巻本を出しています。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という題の小説も出ています」

女性

「えっ、そうなんですか!」

「彼の著書で書かれていることを生かして部の改革に取り組むという内容らしいのですけどね」

女性

「読まれたのですか?」

「読んではいません。NHKのクローズアップ現代で紹介していたことがあったのです」

女性

「ここからが本論です ↓」

 「ポスト資本主義」とは、社会主義、共産主義ではない

「ポスト資本主義」とテーマを設定する方は、殆どが左翼陣営の方というのが定番でした。資本主義の行き詰まりを説き、それに代わって社会主義、共産主義をオブラートに包んで説くという書き方をよくします。

資本主義のもとでの自由競争を放置すれば格差社会は広がることになる。何らかの規制が公益という観点から必要、会社は私企業ではあるが、大企業ほどその生産力が大きく、その社会への影響力を考えれば公器であろう。となれば、その一部あるいは全体の公有化(国有化)といったことを、これからの時代は考えていかなければいけない問題であろう。こんな具合に、柔らかく社会主義、共産主義思想を説き、そのような政策を採用する意義を謳います。

ドラッカーの「ポスト資本主義」の中には、社会主義、共産主義といった考えは全くありません。彼の言葉を紹介します――「これからの社会が、資本主義社会でも社会主義社会でもないことは確かである。その主たる資源が知識であることも確かである」、「わずか数十年前には、ポスト資本主義社会がマルクス主義社会であろうことを誰もが心得ていた。しかしいまでは、マルクス主義社会は次代の社会たりえないことを誰もが知っている」(ドラッカー『ポスト資本主義社会』ダイヤモンド社.2007年/5ページ)。「今日、資本主義とマルクス主義のいずれもが、急速に、きわめて異質な新しい社会にとって代わられつつある」(ドラッカー 前掲書.9ページ)


 

 現実に支配力をもつ資源は知識でありデータである

ポスト資本主義を言うのは、今が「歴史の転換期」だからと言うのです。歴史というのは平板に均等に流れるのではなく、流れが急になったり、緩やかになったりします。大きく流れて緩やかな流れになると共に、そこに今までとは違う世界が展開し始めることがあります。日本の歴史の中で一番分かりやすいのが、明治維新ではないでしょうか。

労働価値説的な考え方がまだ根強く残っていますが、生産性とイノベーションによって価値は創出されると言います。生産性は労働生産性のことであり、労働効率です。イノベーションは、革新、刷新、新機軸と日本語で訳しますが、20世紀を代表する経済学者のJ・A・シュンペーター(1883~1950)の言葉です。

彼は著書『経済発展の理論』(1912年)の中で「企業家のイノベーションが資本主義を駆動する」と言っています。つまり、経済成長を促すのは、企業家による新結合(ニューコンビネーション)だとしたのです。この新結合がイノベーションですが、例えば、従来の技術に新しい技術を組み合わせて新商品を開発する、新しい販売市場を開拓する、原料の仕入れ先を開拓する、見向きもされなかったようなもの(例えば、ゴミ)を原料として商品を開発する、在宅勤務に対応できるような社内組織の整備などです。ちなみに、彼はイノベーションを次の5つに分類しています。

・新しい生産物または生産物の新しい品質の創出と実現
・新しい生産方法の導入
・産業の新しい組織の創出
・新しい販売市場の創出
・新しい買い付け先の開拓

イノベーションは技術革新だけを意味しているのではなく、組織の創出まで含む広い範囲の新機軸を表していることに注意をして欲しいと思います。彼がイノベーションを説いたのは、およそ100年前ですが、当時は多分何を言っているのかイメージをもつ人は少なかったと思います。しかし、彼の主張はここに来て説得力を増しています

そして、実際に世界の経済は、そのように動いています。世界企業ランキングの上位企業の業種を見ると、金融関係、IT関連、サービス業の会社で占められているような状況です。製造業や鉱工業関係の企業は見る影もありません。

     (参考「イノベーション」の意味を正しく理解すると仕事の見方・考え方が大きく変わる :坪井賢一(ダイヤモンド社論説委員)

 知識社会への移行が急速に進む

ドラッカーの捉え方は、第二次世界大戦後すぐにポスト資本主義へ移行する力が働いたとします。そして、その流れが決定的になったのは、1990年のソ連崩壊に伴う冷戦終結だと見るのです。社会主義に対して、資本主義が勝利したという見方があるのですが、彼は「社会システムとしての共産主義を崩壊させたものと同じ力が、資本主義をも老化させつつある」と言います。そして、「今日、資本主義とマルクス主義のいずれもが、急速に、きわめて異質な新しい社会にとって代わられつつある」(ドラッカー 前掲書.9ページ)とします。

そして、「ポスト資本主義社会における支配的な階級は、資本家とプロレタリアート階級ではなく、知識労働者とサービス労働者である」(ドラッカー 前掲書.8ページ)なので、一人ひとりの多元的な価値を生かすシステムが求められるのです。

前時代的な発想で、大きな工場を建てて、そこに機械と従業員を入れて、モノを作って利益を上げるという時代ではなくなったということです

当然、従来の日本独特の終身雇用制を前提とした年功序列型賃金体系を捨て去る企業がこれから増えることになるでしょう。それに代わって、ジョブ型雇用による能力別賃金体系を採用する企業が急速に増えてくるでしょう。労働条件を団体で交渉する時代ではなくなりつつあります。労働組合もその存在意義をなくし、労働運動とか、春闘という言葉が、ここ数年で死語になるのではないかと思っています

 一人ひとりが価値を創造する時代―ーそれに見合った教育態勢づくりを急ぐ必要あり

 社会の急速な変化に伴って、教育の在り方も変えていかざるを得なくなるでしょう。「パソコンや通信衛星の技術が、学校を呑み込む。その結果、学び方と教え方が一変する。教育の経済学が変わる。学校は、労働集約的な存在から資本集約的な存在になる」(ドラッカー 前掲書.245ページ)と言っています。

相変わらず日本は中央集権的な教育体制で一律、一斉教育を行っていますが、それは大量生産時代の工業社会を前提にした教育であり、新しい時代の教育には相応しくありません

かつての時代はみんなと同じモノを欲しがる時代でしたが、今や少しでも違うモノを人は求めようとします。商品やサービスの差別化を図る時代なのです。そのためのイノベーションであり、人間の能力はそこで発揮されるように開発、教育される必要が出てきました。一人ひとりが持っている価値創造の力を引き出すような個性重視の少人数教育、しかもそれを全国一律ではなく、地域の特色を生かした教育実践という方向に舵を切る必要があるのです。

すでにアメリカやヨーロッパ、北欧の国々は、そちらに舵を切っていて、日本は周回遅れをしています。マークシートによる全国一斉大学入試を実施している時代ではありません。本人の能力や適性と学部・学科のミスマッチが大量に起こる可能性があります。それは本人、そして社会にとっても大きな損失なのです。

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