「コロナが思った以上に早く終息に向かっていますね」
「もしかしたら、東京は25日にも解除になるかもしれないと言っていましたね」
「そうすれば、一安心ですよね。ただ、二度あることは三度あると……」
「二波、三波ですか?」
「いや、別の心配事があります。弱り目に祟り目と言って、悪いことは続くことがよくあります」
「100年前のスペイン風邪の時は、第一次世界大戦の時ですよね」
「安政年間の時は、安政大地震、安政の大火がありましたからね」
「最近では、大雨による川の氾濫、台風による被害、そして今回のコロナウイルス。これで終わりでしょう」
「食料危機のうわさがあります」
「止めて下さいよ」
「と言いながら、明日、スーパーに駆け込むんでしょ?」
「みんなが買いだめすると、また品薄で行列ができるじゃあないですか」
「そうならないように、政府には先手を打って欲しいと思っています。」
「まだ、続きます。ここからが本論です」
サプライチェーンを「供給網」と翻訳したところに先見の明あり
必要なものが普通に手に入っていた日常が崩壊した時、人は困惑、狼狽し、それと同時に様々なものが流通の網の目によって結ばれていたことを改めて認識することがあります。
最近よく聞く言葉ですが、サプライチェーン(供給網)という言葉は言い得て妙です。しかし、チェーン(chain)というのは鎖とか鎖状の物、縛るもの、拘束と辞書には載っているのですが、「網」という翻訳はありません。
「供給鎖」では日本語としておかしいので、「供給網」にしたのだとは思いますが、逆に今の状況に合った名訳になっています。つまり、今回の件で、鎖のように固いものではなく、網のように繊細で、何かあれば切れてしまうようなものだと分かったからです。
貿易、取引というのは、2つの条件によって成り立っています。1つは相手との信頼関係です。2つ目は、物的保障です。つまり、相手が必要とする物を質、量ともに揃えて相手に継続的に渡すという作業です。考えてみれば、それなりに大変なことが、日常的にごく当たり前のこととして行われていたのです。
ところが、今回のコロナウイルス騒ぎの中で、一つの製品を作るのに様々な国から多くの部品を取り寄せて作っている実態があることが分かりましたし、他国の予想もしていなかった状況を知ることもあったのです。例えば、アニメ作品を作るのに、途中の行程を中国に発注している会社があったのですが、コロナ感染が広がる恐れがあるということで当局によって現地の作業所が強制閉鎖になってしまったのです。そのようなことは、日本では起こり得るはずがないことなので、まさに想定外だったのです。
食料のサプライチェーンが、最も脆(もろ)い
サプライチェーンというものは、かくも脆いものだということです。そして、その脆い「網」によって我々の食が支えられています。そろそろ、こちらについても注意を払う必要があります。
本論に入る前に、データを紹介します。イギリスのエコノミスト誌に掲載された論文、「食料供給網 いかに守るか」(『日経』(2020.512日付))の中で紹介されたデータです。―—「1970年以降、世界人口は約77億人に倍増したが、世界の食料供給量は3倍近くに増えた」。そのため、食料不足を訴える人たちは大幅に減って、現在は全世界の11%であるとのことです。そして「食品の輸出はこの30年間で6倍に拡大し、全人口の4/5が他国で生産された食品からカロリーの一部を摂取している」とのことです。
食料供給においても、グローバル化が進んでいたということです。そういう中で入ってきた情報で、心配なことが2つあります。1つは、アフリカの干ばつです。「南部 4500万人食料不足や停電」(『日経』2019.12.26日付)という見出しで報道されています――「アフリカ南部が1980年代以来、最悪の干ばつに苦しんでいる。国連によると、農業生産の低下で4500万人が食料不足に直面する」として、ビクトリアの滝は干上がり、FAO(国連食糧農業機関)は過去35年間で最悪の干ばつであり、4500万人が食料不足に直面すると警告しています。
更に打撃を加えるように、「サバクトビバッタ」と「ツマジロクサヨトウ」の異常発生が起こっているとのことです。
(サバクトビバッタ)
(ツマジロクサヨトウ)
この「2大害虫がインド、中国の穀倉地帯を襲い、今年の食糧生産が半減しかねないからだ」(「アジアを襲う害虫異常発生」『選択』2020.4月号)。「サバクトビバッタ」は移動しながら子孫を増やしていくのですが、初期段階での抑制に失敗した模様で、大群団がユーラシア大陸を移動中とのことです。「ツマジロクサヨトウ」というのは蛾の一種で、成虫は無害ですが幼虫が夜間に小麦、大麦、大豆、トウモノコシといった作物を食い尽くすとのこと。「ヨトウ」は「夜盗」から来ているのですが、夜に作物を食い荒らす性質があるとのことです。この「ツマジロクサヨトウ」は2018年に中国の20省で発生し、大被害をもたらしています。
そういう中で、新聞報道(『産経』2020.4.20日付)によりますと、4月16日の時点で少なくとも14か国が農作物・食品の輸出制限を実施しているとのことです。主だった国を紹介すると、ロシア、ベトナム、カンボジア、タイなどです。小麦、トウモノコシ、大豆などの輸出制限をし始めています。
「まちづくり」を考える中で、自給率を高める工夫を
そういった2つの動きがあるのですから、当然万が一を考えて政府は動き始める必要があります。というのは、ご承知の通り日本は「食料大量輸入国」だからです。農水省によりますと、トウモノコシはほぼ全量、小麦は88%、大豆は92%を輸入に頼っています。
それらの在庫は2~3か月程度なので、コロナが長引いた、あるいは第2波が襲ってきた、害虫による被害が拡大したなどによりチェーンが切れた場合を想定しての計画的行動が期待されます。コロナの時のように、実際に危機的状況が誰の目にも明らかになってから対策を取るのではなく、先を見据えて動いて欲しいと思います。
近年の食料危機を調べてみますと、2007年から2008年にかけて途上国での暴動が相次いだため穀物相場が高騰し、それを見て各国が穀物の輸出をとめたのです。そのため、食料不足が一気に起きました。2011年の東日本大震災では物流のラインが災害のため寸断され、緊急物資が現地に届かないということが発生しています。2015年にはアメリカからジャガイモが入って来ない、小麦の価格が高騰したということがありました。
そして、この際に食料安保の観点から、自給率を上げる政策に本腰を入れたらいかがでしょうか。日本の食料自給率は37%(カロリーベース)です。一応政府の30年度目標は国産の小麦、大豆の生産と消費拡大をはかる中で45%にするとしていますが、行動が伴っていないので目標倒れに終わりそうです。
自給的に問題がないのは、米と牛乳くらいだといわれています。工夫をしたらいかがでしょうか。グローバリズムの風も逆風が吹き始めています。
例えば、発想を変えれば、作物はどこでも作ることはできます。ビルの屋上でも、高層ビルの中でも高機能の温室を作ることが可能です。
そして、「アグリ・ルネッサンス」ということで、「田園まちづくり」の提唱を山本雅之氏がしています。アグリというのは、アグリカルチャー(農業)の略ですが、従来は都市と農村の機能と役割を分けた上でのまちづくりだったのですが、これからは「都市・農村共生」の時代だと言います。
具体的には、市街化調整区域に着目します――「都市部に近い市街化調整区域は、『都市・農村共生』をめざす『田園まちづくり』の条件が揃った『宝の山』がたくさんある。『田園まちづくり』の目標は二つ。農村資源を活かして農村住民の経済的・社会的自立をはかること。それに『農ある暮らし』を求める都市住民と連携して活力ある農村コミュニティを再生することである」(山本雅之『農ある暮らしで地域再生』学芸出版社.2009年/170ページ)
農耕民族のDNAを多くの日本人が持っていると思います。そのため、土を妙に恋しがるところがあるので、市民農園がどこも盛況なのだと思います。
スマートシティということで、高機能の都市づくり計画が全国80か所で進められているようです。ただ、「高機能」というのは単なるツールなので、それを主軸にした街づくりは時代とともに廃れます。そして、何十年後か先にゴーストタウンになります。そうならないために、必ず中心軸に「文化」を位置付ける必要があります。農業、教育、芸術など何でも良いのです。それが街の顔であり表情となります。表情がないロボットのような無機質の街を作っても、時代の中で見捨てられることになるでしょう。機能性を高めるだけの技術は、時代の流れの中で必ず陳腐化するからです。
「シテイ」の中に自然を味わえる空間を入れ、隣接した農村との共生という視点も良いと思います。そういう中で自給率を高めるというように、何事も有機的かつ総合的に考え、表情が分かる街づくりをすることが大切です。
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