「経済が分かれば、社会が分かります。ただ、経済は生き物なので、どう動くか掴みにくいところがあります」
「予測しにくいのは、経済行動に膨大な数の人間の感情や欲望が直接的に反映されるからですよね」
「そういう話を前回したと思います。経済の分野は一寸先が闇とも言えますが、その動向を科学的に分析するならば、対応策は見えてきますし、現在の問題点を客観的につかむことができます」
「大事なのは、データ分析でしょうか?」
「スポーツ界に「理由のない勝ちはあるが、理由のない負けはない」という諺があります。経済も同じです。経済のパフォーマンスが上手くいっていない理由が必ずあるはずなのです」
「動き回る経済を数字によって捕捉するというイメージでしょうか?」
「そういうことですね。経済の各種パフォーマンスを分析することにより、改善しなければいけないことが見えてくるはずです」
「具体的に何のデータを見ますか?」
「最初に、日本の労働生産性を見てみることにします」
「労働生産性というのは、効率というような意味でしょうか?」
「意味的には合っています。労働生産性というのは、その業種が生み出した価値の総額を就業者数で割ることにより求められます」
「1人当たりが稼ぎ出した平均的な利益ということですよね」
「そうですね。その数字を日本生産性本部が「労働生産性の国際比較(2019)」ということで発表していますので、見てみたいと思います。詳しい数字は本論で発表しますが、21世紀になってから悪くなっています」
「それまでは良かったのですか?」
「20年前まではトップを走っていたのです」
「どうして、そんなに落ち込んでしまったのですか?」
「その辺りを探っていきたいと思います」
「ここからが本論です ↓」
日本の労働生産性が21世紀に入って急激に落ちた理由
日本の労働生産性が21世紀に入って急激に落ちています。そこには、何らかの原因があるはずです。
日本生産性本部によると、「日本の製造業の労働生産性は98,157 ドルで、OECD に加盟する主要31カ国中14 位」とのこと。さらに、「日本の製造業の労働生産性水準(就業者1 人当たり付加価値)は、98,157 ドル(1,104 万円/為替レート換算)。……日本の水準は、米国の7 割程度」とのことです。
ただ、かつての時代は日本の労働生産性は、世界のトップをひた走っていたのです。
1995年 1位
2000年 1位
2005年 8位
2010年 11位
2016年 15位
(出所 日本生産性本部)
1995年の時の労働生産性が約88000ドル、2019年が約98000ドルで余り伸びていません。ところが、1位のアイルランドは約20年間で労働生産性を約8倍に伸ばしています。
内閣府がその要因として指摘しているのは「設備ビンテージの上昇」です。設備ビンテージというのは、設備の「年齢」です。古くなればなるほど数値が上昇します。その数値が1990年代以降一貫して上昇し続けているのです。それは何を意味するのかということですが、収益が設備投資に回されていないということです。
それでは、収益はどこに回されたのかということですが、内部留保と株式配当に回されたのです。どうしてそのような企業行動をとったのか、ということですが、バブル崩壊、リーマンショックのトラウマが経営陣に残り、新たな設備投資をためらった企業が多かったのではないかと言われています。ところで、話は少しかわりますが、つい最近、日経平均が史上最高値を更新しました。日本企業の競争力が高まった訳ではなく、要するに各企業の内部留保が株式市場に流れているだけの話なのです。
能力開発費や公的教育費が少ないと経済は発展しない
さらに問題なのは、企業の能力開発費です。厚生労働省が「GDPに占める企業の能力開発費の動向」を発表しています。日本の能力開発費の割合は、欧米5か国に比べて突出して低いことがわかります。他の国々がGDPの1%以上を投下しているのに対して、日本のその割合は0.1%と、10倍以上の開きがあることが分かります。
今度は教育費を見てみることにします。「世界の公的教育費対GDP比率 国別ランキング」(データ更新、2020年9月)を見てみると、日本は3.18%で113位です。日本の近くにいわゆる先進国はいません。近辺にどのような国がいるかと言いますと、114位 グレナダ、115位 グアテマラ、116位 カメルーン、117位ルーマニア、118位 ルワンダと続きます。
極めて低いランキングだということを実感して欲しいのですが、何故こうなのかというと、どのような社会になっていくのかということが政府関係者が理解できていないからです。
日本という国はモノづくりで売ってきた国です。政財界の指導的地位にある人たちが、その意識をまだ強くもっているのではないかと思っています。高度経済成長によって一気にGNP世界2位に駆け上がり、世界の奇跡と謳われた栄光の時期が印象深く脳裏に残っているのではないでしょうか。要するに、安い原料を大量に仕入れて、製品にして売る、あるいは人件費の安い外国で組み立てて売る。そうすれば、大丈夫的な発想です。そんなことを感じます。
中核的な産業は、従来の農業といった採取産業、鉱工業、製造業から知識産業にシフトをしています。コロナ禍でも収益を上げているのは、IT関連事業と製薬会社ですが、それらは完全に知的集約産業です。薬やワクチン、完全に知的価値が凝縮されているものです。もうそこには、マルクスの労働価値説は当てはまりませんし、そういった産業分野に従事できる人材は、高度な知識と能力が求められます。
知的集約産業にとって大事なのは、その価値を生み出す人材の育成と養成です。そのためには、公的な教育費と企業の能力開発費を増やす必要がありますが、それがお粗末な状況にあります。
諸富徹氏はその点について「人的資本投資は、資本主義の非物質主義的転回につれて、確実にその重要性が高まっていく。企業でも政府でも、人的資本への投資を節約するところに発展はない。ところが、日本の最大の問題は、企業でも政府でも、人的資本投資があまりにも過少な点にある」(『資本主義の新しい形』岩波書店.2020年/180ページ)と指摘しています。
首相の所信表明演説を聞くと、その時の政府の問題意識がよく分かります。安倍首相の時もそうでしたが、先日の菅総理の所信表明演説の中にも、保育の話はあっても人材育成という観点からの教育の話はありませんでした。トップの意識が低いことに危機感をもっています。そして、そういう状況であれば野党が本来はカバーすべきなのですが、反日的な姿勢をとっている政党、問題意識自体が低い政党などで全く話になりません。
読んでいただき、ありがとうございました。
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