
「サナエノミクスという言葉を、前回のブログで初めて知りました」

「高市政権の経済政策という意味です。アベノミクスは聞いたことがあるでしょ?」

「そちらは、あります。それに比べて耳慣れない言葉だなと思ったものですから……」

「高市首相も安倍元総理のように、もっと積極的に発信すれば良いのにと思っています。財務省の関係筋は「反対」に回って、敵対勢力として動き始めています」

「どうして、そんなことが分かるのですか?」

「『日経』の記事、さらには週刊誌は反高市で動いていますが、そのバックには財務省がいると思っています」

「『日経』は財務省の機関紙のようなものと、いつもおっしゃっていますものね」

「だから、高市政権の経済政策に悉く反対の立場から言論を発しています」

「消費税減税も反対なのですか?」

「それも含めて何から何まで反対の動きをしています」

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メディアはなぜサナエノミクスを批判するのか
『日経』は社説やコラムなどで、高市内閣の財政政策に対して批判的な論調を続けています――「消費税減税はやはり道理に合わない」(「社説」6.28日付)、「官民投資で成長できるのか」(「大磯小磯」7.2日付)、「官民投資370兆円を疑う」(「大磯小磯」7.11日付)。そして、週刊誌も、批判キャンペーンを展開しています。
例えば、今週号の「週刊ポスト」ではアベノミクスのブレーンであった竹中平蔵氏のインタビュー記事を掲載しています。経済学には、均衡を重視する立場と変化・発展を重視する立場があり、竹中平蔵氏は市場競争と構造改革を重視する新古典派経済学の立場なので、拠って立つ経済学の立場は前者です。基本的には、金融政策と財政政策を駆使しながらその成果を自由市場の競争原理に委ねるというものです。現代経済学の主流派と言っても良い立場ですが、この理論はあくまでも闊達な自由競争が行われている限り有効です。ところが、日本経済を引っ張るべき大企業(資本金10億円以上)が現預金を約80兆円抱え「内向き」になっています(財務省「法人企業統計調査」)。この状況に鑑みて高市政権が採用した経済政策が、後者の立場からのものです。
経済発展の鍵を握っているのが企業です。その動向が一番重要なのです。例えば、メタは米南部ルイジアナ州の巨大データセンター構想に500億ドル(約8兆円)以上を投資すると7/13日に発表しました。さらに同日、米インテルはアイルランドの半導体工場に50億ユーロ(約9300億円)を投じ、生産能力を増強すると発表しています(『日経』7.14日付)。このように、アメリカの大企業はリスクを恐れず果敢に投資活動をしています。この行動が経済発展の原動力となるのです。それに対して日本の大企業は総じて預貯金を内に抱えてしまっています。この状況が続けば、日本経済の発展はありません。
サナエノミクスと考え方を異にする方を登場させて「何をやりたいのか分からない」と言わせるのではなく、高市政権のブレーンの学者に登場してもらって、官民フアンドの構想の一部でも話してもらうようにした方が読者としては嬉しいと思われます。竹中氏のインタビュー記事は、財務省を擁護しながら、サナエノミクスについて牽制球を投げるような内容になっています。

(「日本経済新聞」)
370兆円投資計画の狙いと評価
高市政権が発表した2040年度までの「官民総額370兆円超」の投資計画というのは、フィジカルAI、植物工場、永久磁石など有望と見込んだ17分野に対して、2040年度までに370兆円を投じる計画です。具体的な財源の明示(どこから税金を持ってくるか、どう借金を返すかなど)はありませんので、財源は国債ということになるでしょう。
国民の金融資産が約2,300兆円あり、そのうちの半分が預貯金です。先に紹介した通り、大企業が保有する預貯金が80兆円あります。これらはそれぞれの経済主体の管理の下、積極的な投資に回っていない資金です。乱暴な言葉かもしれませんが、経済的には「死に金」です。合計すると約1,200兆円もの資金が有効に活用されていない状況があります。このように国内に豊富な金融資産が存在するため、大規模な国債発行を国内で吸収できる余地があるとの判断が370兆円調達の資金的根拠です。国債を発行し、それで得た資金が市場に流れますので、その分確実に通貨量は増え景気を押し上げる効果が期待できます。
ただ、この投資計画に対して、新聞社の捉え方は真っ二つに分かれています。『日経』や『毎日』が「財源が不透明」「財政悪化のリスクがある」と批判的に報じる一方で、『産経』や『読売』は、この計画の意義を前向きに捉え、好意的・肯定的なトーンで論じています。『産経』は、明確に好意的・応援するトーンで報じています。「経済成長と経済安全保障を両立させる布石」として高く評価しており、長年日本を縛ってきた「過度な緊縮志向」から脱却し、国家主導で未来への投資へ舵を切ったことを肯定しています(2.1日付)。『読売』は、中立からやや好意的(前向き)なトーンで詳細を報じています。「国が投資を主導して民間資金を引き出し、日本の国際競争力を高めるための目玉政策」(「戦略17分野、40年度までに370兆円超の官民投資」『読売』6.20日付)として前向きに紹介しており、AIや半導体、自動運転といった分野への巨額投資が、深刻な人手不足の解消や生産性向上に直結するという期待感を強調する書き方をしています。

(「沖縄タイムス+プラス」)
財務省・政権・市場――三者のせめぎ合い
サナエノミクスに対する評価がこのように真っ二つに分かれていますが、財務省の考え方に近い論調が一部の新聞や週刊誌で見られます。安倍元首相は『回顧録』の中で「財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しにきますから」と書いています。安倍氏が財務省との関係で苦労していたことを当然高市氏は知っているはずです。そして、実際に財務省出身の吉野維一郎首相秘書官(事務担当)に対して、高市首相は執務室への入室を禁じる措置を行い、今夏(2026年夏)には交代人事が発生するとのことです(「財務省出身の吉野維一郎首相秘書官に交代説」『選択』2026年7月号)。
官庁は公僕集団なので、本来なら内閣の指令の下、動かなければいけないのですが、財務省は歴史的な経緯の中で権力機構の一翼を担う機関として動いています。そのため、今後は内閣対財務省という対立を軸として政局が動くことになるかもしれません。議院内閣制の国において、そのようなことがあってはならないのですが、日本は「何世紀にもわたり、権力を分け合う半自治的ないくつかのグループの力のバランスをはかることによって、国政がおこなわれてきた」国なので、このようなことが起きるのです(カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本/権力構造の謎 上』)。この指摘は1980年代末の日本を分析したものですが、現在にも通じる面があると考えられます。今まで、「財務省を中心とした一部省庁のキャリア官僚、一部財界人、自民党幹部」(同上)に首相が加わるかたちで権力が維持されてきました。今後は、この中で権力闘争が行われることになると思われます。
経済的にはどうなのかということですが、手っ取り早く分かる指標が株式相場です。高市政権発足時の日経平均株価は44,000円台(就任当日の終値ベースでは4万4,000円台後半、連立への期待が本格化した同月末には初の5万円大台を突破)であり、現在(2026年7月15日時点)の日経平均株価は68,660円となっています。政権発足からの約9ヶ月間で、株価は24,000円以上も値上がりしており、市場が高市首相の掲げる「サナエノミクス(積極財政・金融緩和継続)」や、経済安全保障を見据えた官民巨大投資(370兆円計画)を非常に強力に評価し、期待を寄せていることが数字の面からもはっきりと裏付けられています。日経・毎日などのメディアは「財源なき水膨れの株高」と批判的なスタンスを崩していませんが、株式市場の側は「リスクを恐れて縮むのではなく、眠っている資金を動かして未来の成長へ賭ける」という政権の明確なグランドデザインに、まさに強気な資金(買い)で応えている状態です。市場はサナエノミクスへの期待を一定程度織り込んでおり、そのような期待感が株価に反映されているように見えます。
もちろん、株価だけで経済政策の成否を判断することはできません。株価は期待を示す先行指標の一つであることは確かですが、今後は、実質賃金、設備投資、生産性、地方経済への波及といった指標も含めて総合的に検証していく必要があることは言うまでもないことです。

(「日本の古本屋」)
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