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デジタル教育は何のために必要なのか ―― 「GIGAスクール構想」が露呈させた全国一律教育行政の限界 / なぜ「紙との併用」になったのか

「デジタル教科書への全面的移行が噂されていましたが、常識的な線で収まりましたね」

女性

「心配していましたので、少しホッとしました」

「完全デジタルは小学校4年生以下は認めないという方針が出ました。現場では、中学生までは紙とデジタルの併用で行くと思いますよ」

女性

「デジタルにしたからと言って、急に学力が上がる訳ではないと思います」

「むしろ、下がると思っています。勉強というのは、書いて覚えるのが基本ですからね。分からないことがあれば、自分の手と足を使って調べるということです。この苦労が子供たちを育てます」

女性

「クリック1つで様々なことが分かってしまうから、どうしても頼るようになるでしょうね」

「目も悪くなりますしね。小学生の間は、従来通り紙の教科書だけで良いと思います。それで、多くのノーベル賞を取ったのだから、未知の機械を導入する必要はまったくないと思います」

女性

「それにしてもデジタルに全面移行する勢いだった文科省ですが、何があったのですか?」

「表向きは、発達心理学者たちの意見を入れてと言っていますが、本当の理由は実は別のところにあると見ています」

女性

「ここからが本論です ↓表紙は「ICT toolbox」提供です

 コロナ禍で加速したGIGAスクール構想の誤算

GIGAスクール構想が初めて打ち出されたのは2019年(令和元年)12月、安倍晋三内閣の時でした。当初、2023年度までに段階的に進める予定だった1人1台端末の整備を、コロナ禍を受けて2020年度末までに大幅に前倒ししたのです。教育現場にとっては、端末の導入だけでなく、それを使いこなすための通信環境や指導体制の整備まで、短期間で対応を迫られることになりました。当時の安倍内閣は急遽方針を転換、「1人1台端末」の整備を前倒しするための巨額の補正予算を閣議決定し、全国一斉導入へと一気に加速させたのです。

2020年春、新型コロナウイルスによる一斉休校で日本の教育デジタル化の遅れが露呈した際、国は慌てたのか、当初5年かけて進めるはずだった計画を「2020年度内(1年以内)に完了させる」と“前倒し方針”を決めます。5年かける予定だったものを1年に圧縮する。当然、無理が生じます。その時に出された指示が「端末を一刻も早く子供たちに届ける」というものでした。それまでICT教育に慎重だった地方の自治体に対しても、国の予算(補正予算)を使って一斉に動くよう、強力な行政指導が行なわれたのです。

当時の政策を振り返ると、端末を配備することが先行し、それを教育現場で安定的に使うための通信環境については、十分な検証が行われていなかったのではないかという疑問が残ります。インターネットは、単に情報を受信するだけの仕組みではありません。児童生徒が同時に動画を視聴したり、課題を送信したりする場合には、それに対応できる通信容量と安定性が求められます。ところが、容量が足りず、授業が始まってクラスの40人が一斉に同じデジタル教科書の重い動画やページを開くと、回線が完全にパンクしてフリーズするという事態が多発したのです。その後、文部科学省が調査して、デジタル教科書が快適に動く推奨帯域を満たしている学校は、全体の2割程度ということが分かったのです(「学校のネットワーク環境に関する調査」2024年4月発表)。ただ、その後、通信環境の整備が進み、2025年の調査では63.9%にまで改善されています。

(「長崎新聞」)

 デジタル教科書はなぜ「紙との併用」になったのか

今回、令和12年度から正式な教科書となるデジタル教科書について、文科省は10月22日、全ての学年で紙とデジタルを組み合わせた「ハイブリッド形式」を基本とすること、そして「完全デジタル」の教科書は小学校5年生以上の一部の教科に限定する方針を明らかにしました。今年6月の法改正で法律上は可能になった「完全デジタル」の教科書ですが、適用範囲は限定されることになります。そこにおいては、文科大臣の「紙を中心とした学習環境が基本」といった考えや有識者会議でのデジタルの弊害を指摘する意見などが影響を与えたとは思いますが、デジタル環境が全国的に揃っていないという整備状況に格差が残っているという現実も、無視できない問題だったのです。教育効果と技術的条件の両面から、デジタル化の進め方を再検討する必要があると思われます。

GIGAスクール構想を受けて、義務教育段階における1人1台端末が整備された自治体は2022年度末時点で99.9%となりました。ところが、いざ端末を使ってみると、様々な不具合が起きました。2023年2月に文部科学省は「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」を公表しましたが、それによると「ログインに時間がかかり授業開始が遅れる」「動画視聴時に映像の乱れが発生したりして、スムーズに再生できない」「ネットワークがたびたび切断される」などの不具合が生じています。現状は、それらが完全に改善できていない状況です。

「通信トラブルで教科書が見られない」という事態は、教育現場において致命傷になります。だからこそ、万が一通信が途切れても学びを止めないセーフティネットとして、「やっぱり手元に紙の教科書を置いておく必要がある」ということで、最終的に「併用」という結論に至ったのでしょう。そもそも、紙とデジタルは必ずしも対立するものではありません。それぞれの特性を理解し、教育内容や児童生徒の発達段階に応じて使い分けることこそ、本来の教育行政が考えるべきことではないでしょうか。

(「読売新聞」)

 

 全国一律のデジタル教育は本当に必要なのか

GIGAスクール構想を国は全国的に展開しようとしていますが、その発想自体が間違っていると思っています。紙の教科書で充分に教育効果を上げることができないという状況が出てきたならば、デジタル教科書という話に移行すべきなのに、単に時代の流れみたいなノリで導入しようとしているからです。そして、その程度の考えでGIGAスクール構想(第1期)により全国の学校にWi-Fi環境を整備しようとしたのですが、文科省は国の方針として「1ギガを標準とする仕様書」を作成し、自治体に推奨・提示しました。当時、校内LANを整備すると、国が費用の半分を補助する仕組みになっていました。そして、この補助金をもらうためには文科省の提示した標準仕様書の機器でなければならないというルールがあったのです。「1Gbpsの普及モデル」が全国的に設置されたのは、このためです。

国が学校規模を考慮せず1ギガ普及モデルを推奨したのは、「2020年当時の一般的なパブリッククラウドの活用(主に調べ学習や文字の入力)」であれば、1ギガで十分足りると計算していたからです。その際に「クラス全員で一斉にデジタル教科書の高画質な動画をストリーミング再生する」「全員が同時にカメラをオンにして遠隔授業をする」といった、テレビの放送並みに膨大なデータ通信(高負荷)が行われることは、文部官僚たちにとって想定外だったのです。ここでも「一斉主義の歪み」が出たのです。

学校規模による通信量の違いを無視した「一律1ギガ」の突貫工事をしたのですが、生徒数が300人〜500人いる中規模・大規模の学校では、全校生徒が一斉に双方向通信を始めた瞬間に1ギガ回線では容量不足による不具合が発生する確率が高くなります。デジタル教科書の本格導入を前にして完全にその限界を露呈したことが、今回の「併用」決定に至った真の理由だと思われます。

今後、デジタル教育を本格導入するのであれば、多くの学校ではネットワーク環境を改善する必要があります。例えば,全校300人~500人の学校であれば、インターネット回線を「1ギガから10ギガ」に引き上げ、さらに300人~500人の同時通信に耐えられるよう、教室内の集線装置(スイッチ)やLANケーブルなどを刷新する必要があります。このように、学校のネットワーク環境を全面的に改修する場合、既存設備の状況や工事内容によって費用は異なりますが、自治体の整備事例などを参考にすると、1校当たり2,000万円前後が一つの目安になると考えられます。そして、月々の通信費が10万~15万余分にかかるようになります。国の補助は多少ありますが、これらの費用の多くが自治体の負担となります。その負担に耐えられない自治体もあると思います。そもそも、そこまで費用をかけてデジタル教育を全国一斉に本格導入する必要があるのでしょうか。

子供たちに「自分の頭で考える力」を身につけさせようという教育行政が、自らは「デジタル化は時代の流れだから」という発想から抜け出せず、その教育効果を十分に検証することなく自治体に多額の費用を負担させてでも全国一律に導入しようとしています。まず、自分の頭で考えなければならないのは、中央で教育行政を担う人たちではないでしょうか。

(「UMU」)

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